HIME-DIAの開発
写真:合成後カプセルから取り出した直後のHIME-DIA
ニュースの項目でもお知らせしたように、超高圧グループでは、2003年に発表した超高硬度ナノ多結晶ダイヤモンド(NPD)焼結体の大型化・高品質化にこのほど成功しました。このダイヤモンドはHIME-DIAと名付けられ(写真)、工業的な利用に向けた様々な試験を開始しています。
HIME-DIA合成のそもそものきっかけは、25年ほど前、筆者がオーストラリアで研究員をしていた1980年時代半ばに遡ります。グラファイトをカプセル材として用いた高圧実験に失敗して、予期せずに温度が急上昇してしまい、回収した試料の一部にガラスのような無色透明の小片を見い出しました。ダイヤモンドかなと一瞬思いましたが、触媒を用いずにそんなきれいなダイヤができたという報告はなく、別の物質の混入かもしれないと、このときはそれ以上の検討はおこないませんでした。
1989年に愛媛大に赴任した後、気になっていたこの「幻のダイヤモンド」の合成再現実験をはじめました。当時の実験ノートを見ると、1990年の4月に新しい卒論生と一緒におこなったのが最初の実験のようです。最初はなかなか目的のものができず、やはりあれは夢か幻だったのかと落胆しましたが、あきらめずに時々思い出したように1人で実験を重ねてきました。そしてやっとその再現に成功したのが、5年あまり後の1995年9月のことでした。約25万気圧、2500℃という、予想以上に高い圧力と温度が必要だったのです。
その後も暇をみては実験を重ね、おおよそ合成条件がわかりはじめた1998年からは、卒論生や修論生のテーマとして本格的な合成実験を開始しました。その成果を高圧力関係の学会で発表したところ、ダイモンドの専門家である住友電工の角谷均博士の目にとまり、共同研究を開始したのが2002年のことです。角谷さんとの共同研究を契機に、このダイヤモンドがナノサイズの特異な組織を持ち、しかも非常に高い硬度を持つことが明らかになりました。その後も両者の密接な協力のもと、合成法の改良や生成物の評価を経て、今回の大型化と高品質化に至った次第です。
今後、更に高品質化と大型化を目指すとともにその加工方法を確立し、より高い圧力の発生にも応用していきたいと考えています。地球科学で用いられている、マルチアンビル装置とダイヤモンドアンビル装置の両方への導入を目指し、すでに基礎的な研究を開始しつつあります。HIME-DIAのポテンシャルを生かせば、これらの静的高圧装置を用いた数百万気圧の発生も夢ではなく、今後の進展が楽しみです。またこの方法を用いて、様々なダイヤモンド関連超硬材料の合成も試みたいと思います。
本研究においては角谷さんの有益な助言を初め、現在修士課程の大西健央君など多くの学生や研究員の方のご協力をいただきました。合成実験をおこなう上では、中でも最初にこれを研究テーマにした中澤真希さんや栗尾文子さん(現(株)シンテック)、研究員の阪本志津枝さん(現(株)日本電子データム)、技術補佐員の斎山藍子さん初め、何人かの女性の貢献が大きかったと感じています。ちなみにこのことが、愛媛の"媛"とともにHIME-DIAの"ヒメ"の由来の一つです。ヒメではか弱い印象があり、硬さが売りの本ダイヤモンドにはふさわしくないというご意見もありますが、最近のヒメはヒコ(彦)よりも強いですから…(入舩徹男)。