地球深部の写真をとる:ホットスポットとマントルプル−ム
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図1 |
地球は地殻・マントル・中心核の3つの部分から成っており、それぞれの境界は深
さ35km付近と2900km付近に存在しています。地球の表面には厚さ100kmほどの
「プレート」と呼ばれる何枚かの固い殻のようなものが存在しており、これらは常に
移動しています。プレートどうしの相互作用が地震や火山を引き起こしているのです
。このことはプレートテクトニクスとしてよく知られています。
このプレートテクトニクスの原動力はもっと深いところにあると考えられ、プレー
トテクトニクスでは手の届かない深部(下部マントル)での構造も考慮された考えと
して、プルームテクトニクスという説が提唱されています。マントル内部では対流が
起こっており、この地球深部についての研究が現在盛んに行われています。
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図2 |
プルームはマントルの高温の上昇流であり、これがマントルの真上のプレートを突
き抜けると火山活動が起こり、その場所をホットスポットと呼びます。「プルーム」の
語源は上昇する煙のことです。プルームの上をプレートが移動すれば、プレートには
ホットスポットの履歴としての火山列が形成されます。この代表的な例がハワイ−天
皇海山列です。
これまで多くの研究者達がさまざまな手法を使ってホットスポットとマントルプル
ームについて研究を行ってきました。最近の地震学では、地球の内部をCTスキャン
のように見てみようという試みがなされています。この方法は地震波トモグラフィー
と呼ばれています。しかし、現在までに行われてきたトモグラフィーには、いくつか
の問題があります。そこで趙大鵬はこれらの問題を解決するために、より新しいトモ
グラフィー法を構築しました。
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図3 |
これまでのほとんどの研究はブロックで地球の構造を表しており、まるでレンガで
造られた壁のような不自然なイメージでした。そこで、趙は地球の構造をグリッドネ
ット(点でつながれた網)で表し、より現実的にイメージを求めることに成功しまし
た。さらに趙は地震波の走時と経路をこれまでのものより 精度よく計算するため、
地球内部に存在する不連続面の凸凹を考慮しました。地球内 部において、不連続面
(境界面)の深さは地球のどこでも同じ深さというわけではあ りません。その深さは
場所によって違っているのです。これまでの研究ではこの深さ 変化が考慮されていな
かったのです。この新しく作られたトモグラフィー法により、 マントル全体を見渡せ
るようになり、より精度のよいグローバルな研究が可能となりました。また、
この研究により、プルームの起源とその上昇プロセスについて新たな
ことがわかりました。
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図4 |
図1〜4は求められたトモグラフィーの垂直断面図であり、地表から核−マントル
境界(CMB)までの地震波トモグラフィーが示されています。断面図の位置は世界
地図に示されています。上昇するプルームの温度がまわりのマントルよりも高温であ
れば、そこを通過する地震波速度は遅くなり、低速度異常
として観測されるはずです。これらの図には、赤い部分が地震波速度が低速度となる
部分であり、青い部分が高速度となる部分として表されています。これらの図を見て
みると、ハワイなどのホットスポット火山下に地表から続く赤く示された低速度異常
体が見られ、これが高温のプルームを映していると思われ
ます。そして、ホットスポット下に存在する低速度のマントルプルームは地表までま
っすぐに上昇するのではなく、曲がっているように見えます。これは、プルームの上
昇がマントル対流に影響され、曲がってしまったと考えられます。
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図5 |
図5はCMBにおけるトモグラフィー結果です。黒三角が地表での47個のホットス
ポットの位置を示しています。このホットスポットの位置と、赤く示された低速度域
との間によい相関が見られます。つまり、このことは多くのホットスポットとプルー
ムの起源はCMBにあることを示唆しています。
趙の研究室では主に地震波を使って地球内部を探ることを試みています。このトモ
グラフィーと同じ手法で、大地震の心臓となる構造、火山下のマグマ溜まりの構造に
ついても研究を行っています。この手法は地震学において非常に有効で重要なもので
す。これからの地震学の発展におおいに貢献すると期待さ
れています。
参考文献
○Zhao D. (2001) Seismic structure and
origin of hotspots and mantle plumes,
Earth Planet. Sci. Lett., 192, 251-265.
○趙大鵬 (2001) ホットスポットとマントルプルームの深部構造と起源、月刊 地球
、23、470−475.