日本列島下の660km不連続面の深さ分布


 比較的大きい規模の地震が発生すると、地震の波が長い時間、地球の中を通っていきます。図1の上の図は、昨年の6月28日に中国とロシアの国境付近で発生した地震の時の、日本周辺の観測点における記録です。ここに見えているのは、地球の地表と、地下約2900kmのCMB(液体鉄の核と固体岩石のマントルの境界)の間のマントルを何回も往復しているS波です。ScSというのは、地表-CMBを1往復、ScS4というのは4往復してきた波です。地震発生から1時間以上もの間、マントルの中を行ったり来たりしているのです。このような現象はかなり昔から認識されています。マントルという一つの層の中を何度も往復するため、往復回数が一つ増えるたびにどれだけ振幅が小さくなるか、というような考え方から、マントルの減衰の効果を見積もることに使われてきました。
      (図1)
 図1の下の図は、日本の周辺で発生した3つの 比較的大規模な地震の観測記録です。時間領域は、上の図の中で線で囲んだ辺りになります。sScSというのは、まず、震源から上(地表)に向かってS波が出て、地表で反射して地下深くに向かい、CMBで反射してまた地表に戻ってくる波です。ScS2は、上述したように,震源から下向きに出たS波が、順に、CMB-地表-CMBと反射してくる波です。ちょうどマントルを2往復します。この2つの波が大きな振幅で見えているのですが、よく観察するとこれらの2つの間にもう一つ、弱いながらも別の波が見えていることが分かります。
 1次元の地球の構造モデルを使って理論走時や理論波形を計算してみると、この小さい波が何であるのかが分かります。この波は、地表とCMBの間を往復するS波のエネルギーの一部が、660km不連続面という、地球マントルを上部と下部に分ける境界で反射してきたものでした。この660km不連続面は、マントルを構成している主要物質が、相転移を起こしている場所とされています。"660km"というのは、全地球での平均的(代表的)な値なのですが、その場その場での温度の高低によってその深さが変わることが予想されています。スラブが沈み込んでいるような場所では、その低温のために"660km"は深くなり,プリュームのような高温物質が上昇してきている場所では浅くなると考えられています。逆に、"660km"の深さを調べることで、その場所での温度を推定することも可能です。
        (図2)
 図1下の図に見える、小さな"660km"での反射波の各観測点での到達時刻を、その反射点の深さに焼き直してみたのが図2になります.西日本の下ではどの点でも約20km程度深くなっています。これは、沈み込んでいる低温の太平洋プレートが水平方向に横たわっていることを示しています。また、中部・関東地方の下では、ところどころで浅くなっている地点がありますが、西日本下での一様な分布に比べるとかなりごちゃごちゃしています。「浅い=高温」と仮定すると、この高温物質が660km不連続面を通過するときには、細かく分かれながら複雑な形状で上昇しているのかもしれません。
 このように、地震の波から見える不連続面の形状が、マントルのダイナミクスを知る上での重要な手がかりとヒントを与えてくれます。今後もさらに詳細な分布のマッピングを進めていきます。

図1 マントル内を何度も往復反射するS波.
図2 "660km"の深さ分布.丸印は,深いことを, 三角印は浅いことを示す.白から黒にかけて深く なる.





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