I have come to GRC from Northwestern University, just north of Chicago, as a visiting researcher and visiting professor, through July 1.
 I received my Ph.D. from Northwestern in 1987, working with Bernie Wood on thermodynamic models of mantle phase transitions, as well as performing piston-cylinder experiments on clinopyroxenes. As a postdoc, I made my first trip to Japan, working for a year with Mineo Kumazawa at Tokyo University's Geophysical Institute, where I continued my thermodynamic modeling while performing multi-anvil experiments on pyroxene-garnet systems. In late 1988 I became a joint post-doc between the Geophysical Lab and the Dept. of Terrestrial Magnetism at the Carnegie Institution of Washington, D.C. There I spent two years, pursuing thermoelastic modeling while also working on body-wave seismology of the lower mantle and core with Paul Silver. In late 1990 I returned to Northwestern as a faculty member, where I've taught both geophysics and petrology. Recently I served a three-year term as associate dean of Northwestern's college of arts and sciences.
 In 1994 I began to make short trips to Japan to attend conferences and workshops, and in 1995 I spent nine months as a visiting lecturer and researcher at Princeton (where I met my wife, Jennifer). September of 1997 brought a longer visit to Japan, when I spent three months as a visiting researcher at Tokyo University's Earthquake Research Institute, and in April 1999 I returned to ERI for another three months as a visiting professor. Now, in 2005, it is a great pleasure to return Japan again, to spend six months at Ehime University.
 My research interests have evolved to include thermodynamics, high-pressure phase relations, seismology, and geodynamics. These interdisciplinary interests have converged, for example, in a series of publications involving petrological buoyancy forces and seismicity in subducting slabs. More recently, I've been working on such topics as: Ca-poor clinopyroxene and low shear-wave velocities beneath oceanic plateaux; buoyancy forces, bending moments, and velocity anomalies associated with slab stagnation; complex propagation of strain energy in networks; and adiabiatic decompression of planetary densities. Here at GRC I expect to interact with students and faculty in both the high-pressure and seismology groups.




     土屋 卓久
      (助教授)
  
  
 
 このたび本センター活動数値解析部門の助教授として赴任いたしました。専門は鉱物物性理論で地球深部のような高温高圧極端条件下における物質の振る舞いについて、主に電子状態理論(特に密度汎関数理論、DFT)に基づく物性シミュレーション法を用いて調べています。DFTは多電子系の基底状態を記述する理論で、着目した系のいろいろな性質を量子力学の基本原理のみから出発して非経験的に計算する方法です。これは別名第一原理計算法と呼ばれ、化学結合の種類を問わず物質全般に広く適用できる汎用性と非経験性に基づく予言性が最大の特徴です。昨今の計算機の飛躍的な進歩やナノサイエンスの発展と相まって、物質科学における重要な研究手段の一つとなりました。DFTの開発が1998年のノーベル化学賞の受賞対象となったことはご存知の方も多いでしょう。
 さて、地球深部の構造や化学組成の詳細を明らかにすることは、現在の地球の姿を知るだけでなく、地球の誕生から今の姿を経て今後どうなるのか、過去から未来へと続く壮大な謎をとく鍵でもあります。最新の地震学の研究により地球マントルは思っていたほど均質ではなく複雑な局所構造を持っていることが分かってきました。地球深部は実際に人間が到達することが不可能な超高温高圧の世界ですから、その物質科学的起源を解釈するためには、構成鉱物の性質を知る必要があります。私は第一原理計算法を主とする物性シミュレーションにより超高圧力下での物質の振る舞いやそのメカニズムを理解する研究、高圧実験の結果を補う研究や実験で得るのが難しい物性量を予言する研究、そのための計算手法の開発を行っています。
 最も知りたい鉱物の情報の一つが、地震波速度と直接対応する高温高圧その場条件における弾性波速度です(これを求めるためにはcij(P,V,T(,x))とPVT(x)状態方程式がいります)。また、そもそも地球深部にどのような鉱物が存在するかを明らかにするために、PT(x)相平衡がとても重要です。DFTで求まるのは基本的には静的(0K without zero-point effect)な性質ですから、これから熱力学的性質や弾性特性を求めるため、物性物理や計算物理のいろいろな方法(分子動力学、格子動力学、準調和近似、弾性理論などなど)をうまく組み合わせる工夫が必要となります。その結果私のグループでは現在ほぼルーチンワークとして上記の物理量を「どんな鉱物に対しても」「任意の温度圧力下で」「非経験的に」計算することが可能となっています。この方法で我々が予測したMgSiO3ペロブスカイトの高温高圧相転移におけるクラペイロン勾配や弾性波速度変化は、D"地震波不連続面に関し観測事実などから要請される値と驚くべき一致を示しました。ただし上で「ほぼ」と書いたように、現在のところまったく素人の人がすぐに意味ある結果を得ることができるほどには、まだこの方法は完成されていません。言うまでもなく、固体物理学や物性物理学の基礎をしっかり身に付けたうえで計算を行わないと、気付かずに間違いをしてしまうことでしょう。
 実際の地球内部は単純な化学組成ではなく複雑な固溶系を成していますから、不純物元素の固溶効果(X)を考慮していくことは、より現実的な状態を扱う上で大変重要です。特に超高圧下での鉄イオン(Fe2+,Fe3+)の挙動の解明は現在の鉱物物理における最優先課題の一つです。しかし同時に幾つかのクリアーすべき問題があり、中でもmetal-insulator、high-spin-low-spinの問題はけっこう厄介です。その他、まだ第一原理計算法の適用が実現できていない物理量、例えば熱伝導や元素拡散など輸送現象や流動特性、の計算手法を考え出していくことや、対象を固体ばかりでなく融体へ拡張することも興味ある問題で、地球科学のみならず高圧物理や材料科学など他分野への大きな派生効果も期待できます。今後しばらくはこれらの課題を中心に取り組むことを予定しています。物性シミュレーション法による地球内部科学は世界的に見てもまだまだ発展途上で、他分野からの期待度も高く世界的な研究をするチャンスがまだあちこちに転がっている状況です。高圧実験、地震学研究はともに私の研究と密接に関連しており、これらの世界的な拠点で活発な研究活動が行われているGRCは私にとってまさにうってつけの研究環境です。松山発の新しい地球科学創出を目指し、皆さんとともに楽しくがんばりたいと思っています。




        丹下 慶範
      (特定領域研究員)
 


 今年4月より本センターに特定領域研究員としてGRCに所属しています。とはいうものの、普段は兵庫県佐用郡三日月町に存在する大型放射光施設、SPring-8に在駐して研究を行っています。学部4年生の時から高圧地球科学の世界に足を踏み入れ、修士・博士課程ともに川井型マルチアンビル装置やダイヤモンドアンビルセル(DAC)などの実験装置を、KEKやSPring-8の放射光と組み合わせて利用する、X線その場観察実験を行ってきました。
 地球深部の条件を静的に発生させられる代表的な実験装置としては、川井型(6-8型)マルチアンビル装置とDACがあげられます。マルチアンビル装置は主に日本国内で開発され、現在は世界中で広く利用されている、非常に強力な道具です。一方のDACは単結晶のダイヤモンドを圧力発生部に使った、片手に乗るほど小さく手軽で、なおかつ現在もっとも高い、静的な圧力を発生させられる装置です。
100 GPa以上の高圧力をいとも簡単に発生させることのできるDACに比べると、一般的な実験圧力条件が27 GPa程度に限られるマルチアンビル装置を使って、より高い圧力の発生を目指すメリットは、一見ないように思われるかもしれません。しかしながらマルチアンビル装置には高温発生の安定性と、DACの1000倍近くもある大容量試料という、多成分多相系における静的高圧実験を行う際に欠くことのできない、大きなアドバンテージが存在します。
 マルチアンビル装置の持つそれらの利点を活かしたまま、より高い圧力下での実験を可能にするため、近年、高圧発生部に、それまで用いられていた超硬合金よりも硬度の高い焼結ダイヤモンドを使用する試みが、GRCをはじめ日本国内の数グループによって行われてきました。僕自身も博士課程で、焼結ダイヤモンドアンビルを用いた超高圧力、さらに高圧下での高温発生の技術開発に取り組み、SPring-8内BL4B1に設置されたSPEED-Mk.IIを用いて約45 GPa・2000℃という温度圧力条件の発生に成功しました。その結果、下部マントル最上部から中深部にかけて、マントルを構成する最も基本的な系であるMgO-FeO-SiO2三成分系の相平衡において、これまでDACを用いた実験でははっきりと確認できなかった、大きな圧力依存性の存在を明らかにすることができました。これは"焼結ダイヤ+マルチアンビル"という実験系の利点・可能性を端的に表すものであると考えられます。
 下部マントルの研究を行う上で欠けていた圧力軸を手に入れたマルチアンビル装置は、より一層、強力な地球内部シミュレーターとして進化することが期待されます。今後もこれまで蓄積してきた経験や技術を活かして、さらなる超高圧高温発生の技術開発に力を注ぎ、本ニュースレター上での毎号記録更新報告を目指したいと思います。



← Back


   Craig Richard Bina
  (外国人研究員(客員))