2005年度 Chapman 会議:プルームに関する大論争 



 8月26日から9月4日まで、イギリスの北部にあるFort Williamという小さな都市で開催された2005年度のChapman 会議に参加しました。Chapman会議とは、アメリカ地球物理学連合(AGU)が主催する地球惑星科学のトップレベルの小型国際会議の一つで,ほぼ毎年一度世界のどこかで行われます。会議の正式な講演者は、全員が主催者から招聘された方々です。Chapman会議のテーマは毎年異なり、今現在の地球惑星科学の研究者の間で非常に関心の高い研究課題に焦点を絞ります。今年のテーマは「プルームに関する大論争:洪水玄武岩とホットスポットの起源」(The Great Plume Debate: The Origin and Impact of LIPs and Hot Spots)でした。マントルプルーム説、他の仮説、リソスフェアとマントルの物理とダイナミクス、地球内部の温度、地球年代学、地震学、惑星学、地質学、岩石と地球化学、といった9つの研究分野において世界各国から46人が参加し、講演しました。各分野の講演者は、それぞれの分野におけるトップの研究者6名以内に限定されています。日本からの講演者は東京工業大学の高橋栄一教授と私の二人でした。
 近年は、地球上のホットスポット火山と洪水玄武岩の起源、およびそれらがマントルプルーム説で説明できるかどうか、について非常に関心が高まっており、大きな研究課題となっています。研究者の間では,プルーム説の強い支持派、強い反対派、それらの中間派と3つに分かれています。これが今回のChapman会議が開かれる背景です。会議の参加者達は皆、各分野の研究手法を用いてホットスポットとマントルプルームに関して研究 を進めている著名な研究者達です。会議初日の8月28日に、マントルプルーム説の提唱者、プレートテクトニクス説の創立者の一人でもある、プリンストン大学のW.J. Morgan教授(写真をご覧ください)とプルーム説の強い支持派のI. Campbell教授(オーストラリア国立大学)が講演し、プルーム説について系統的に説明しました。そして、プルーム説の強い反対派のG. Foulger教授(イギリスのDurham大学)が講演し、ホットスポット火山と洪水玄武岩の起源はプレートテクトニクス説で十分説明できる上部マントルにあるプロセスであり、下部マントルのプルームの介入が必要でなく、その存在を支持する証拠もないと主張し、プルーム説を真正面から批判しました。これでプルームに関する大論争が始まりました。そのあと、各分野の講演者達は次々に自分の研究成果を披露し、マントルプルームについての論争に加わりました。全体的な印象としては、計算機シミュレーションと室内実験でマントル対流を研究する学者のほとんどはプルーム説の支持派で、その他の分野の研究者達はプルーム説の支持派、反対派と中間派に分かれているようです。会議参加者全体としては中間派が多かったようで、ハワイやアイスランドのような強いホットスポット火山に関しては、下部マントルに存在するプルームでその起源を説明できるが、全てのホットスポットと洪水玄武岩をプルーム説で説明することはできない、という意見でした。
 私は会議の3日目(8月30日)に、"Multi-scale seismic tomography of mantle plumes and subducting slabs"という題目で講演しました。我々GRCの全地球トモグラフィーの結果であるEhime-2004モデルおよび他の地域的な高分解能トモグラフィーの最新結果から見たマントルプルームと沈み込むスラブのカラーイメージを紹介しました。私の講演は大きな反響を呼び、たくさんの質問を受け、活発な討論が講演後に約20分続きました。地震学のセッション終了後のコーヒーブレークの時間にも、多くの方々に囲まれ、我々のトモグラフィーの結果についての議論が続きました。会議の5日目(9月1日)に、東工大の高橋先生はハワイ火山下のマグマ形成について講演され、大きな注目を受けました。また、高橋先生は岩石と地球化学セッションの司会者も務められ、会議中に大変活躍されました。
 会議最後(9月1日)の参加者全員の統一意見としては、今後さらにホットスポットとマントルプルームに関する研究を強化することでした。特に約10の最優先研究テーマを選びました。そのトップの3つは地震学の課題で、(1)下部マントルの地震波トモグラフィー、(2)洪水玄武岩域下のplume headのイメージング、(3)マントル停滞中のplume headの検出、といったテーマです。プルーム大論争の決着における地震波トモグラフィーの重要性が全参加者に認識されたようです。 今回のChapman会議はイギリス北部の風景がきれいな小さな町で行われましたが、交通は不便で、5日間の会議と往復の時間を含め、10日間かかりました。しかし、このChapman会議は、今後の研究テーマの展望と方向性を確認する上で大変有益でした(趙 大鵬)。





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