入舩 徹男



 この4月でGRCが設立されて5年になります。この節目の年を迎えるにあたり、3月には関係分野の著名な先生方による外部評価を受ける予定です。各教員にはこれまでの成果と今後の方針を語っていただくとともに、学生、院生、研究員による発表会も予定しており、学内外にオープンにした成果発表の場としたいと考えております。評価委員の先生方はもとより、多くの関係者の皆様にご参加いただき、GRCの活動や今後の方向性に関して、忌憚のないご意見を賜れば幸いです。
 さて、新年を迎え、この場をお借りして研究に関する私自身の今年の夢を少し語らせていただきたいと思います。今から7年近く前になりますが、NHKの「面白学問人生」という番組に出演したことがあります。その最後に、今後の夢を語ってくださいと尋ねられました。私はとっさに、我々の用いているマルチアンビル型高圧装置で「50万気圧、いや100万気圧を発生させたい」という点と、「ダイヤモンドより硬い物質を合成したい」という2点をあげました。
 当時の装置の発生圧力限界は30万気圧そこそこであり、またダイヤモンドより硬い物質の存在は、予想されてはいましたが、実現の見通しはありませんでした。しかしその後、GRCでは50万気圧を越える圧力発生に成功し、またダイヤモンド単結晶より硬い、"ナノダイヤモンド多結晶体"の合成に成功しました。予想に反して(?)、このときの夢の半分は、数年のうちに実現したことになります。
 この2つの技術を組み合わせ、近い将来100万気圧の突破を目指したいと考えています。昨今固体地球科学の話題をさらっている、マントルと核の境界層であるD"層の解明には、精密な実験が可能なマルチアンビル装置で、100万気圧を越える圧力発生が必要です。是非とも今年は、そのための足掛かりを得たいと考えています。
 上記の番組では述べませんでしたが、もう一つの夢はマントル物質の弾性波速度、即ち地震波速度の測定でした。地球内部で最も信頼性の高い観測量は、地震波の伝播速度であり、これを実験室内で直接測定することによりマントル物質を特定することが可能です。これについても、昨年GRCでは大きなブレークスルーがありました。SPring-8の強力X線と超音波技術を組み合わせることにより、マントル深部条件下で弾性波速度精密測定が可能になったのです。これを用いて世界最先端の実験データが得られつつあり、今年はその成果を国内外に発信できるものと思います。
 超高圧グループ以外でも、GRCでは最先端の新しい研究の展開がおこなわれつつあります。地震学グループにおいては、新しい高分解能地震波トモグラフィーモデルの構築が強力に推進されています。その成果は、近くEHIME (Evolving High-resolution Image of the Mantle of the Earth)-2006として発表される予定です。更に、昨年GRCにおいて立ち上がった理論研究グループによって、並列コンピューター環境が整備されつつあります。今後、国内外においてこの分野をリードする、新しい地球深部科学研究の展開が期待されます。 
 今年もそれぞれの夢を実現すべく、またその成果の世界への発信をめざして、GRC構成員一同頑張りたいと思います。  



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