入舩 徹男
この6月にバイロイト地球科学研究所(BGI)を訪れる機会がありました。この研究所はドイツの片田舎の地方大学に設立されましたが、20年を経てヨーロッパを代表する地球深部科学の拠点として成長したことで注目されています。今回の訪問の一つの目的は、その成長の秘密を探り、GRCの今後の発展のために参考にすべき情報収集する点にありました。
BGIでは超高圧実験に軸足をおき、多様な手法を用いた試料の分析を組み合わせることに集中し、特に物質科学方面で大きな成果をあげています。また、この分野に特化した研究者の層が厚いとともに、ドイツの伝統的なテクニカルスタッフの充実が大きな特徴でした。スタッフの数は、パーマネントの研究者12名およびテクニカルスタッフ13名に対し、事務関係が3名と予想以上に少ないのが印象的でした。
一方で、特にヨーロッパ各地からの訪問研究者が多く、研究所内は英語が標準語として用いられ、十分なコミュニケーションのもと共同研究が盛んにおこなわれています。予算面でもバイエルン州やドイツ連邦はもとより、EUからの資金も重点投入され、ヨーロッパを中心とした研究センターとしての機能を果たしているようにみえました。
GRCの置かれた立場や我が国の大学の現状を考えると、BGI方式をただちに導入することは不可能ですし、またそのような考えでは行き詰まるのも明らかだと思われます。私としては、研究所の規模の点からもBGI方式を1つのモデルにしつつ、我々の置かれた状況に即した今後の発展の方向を模索したいと考えます。
スタッフの構成に関しては、GRC教員の数は現在8名ですので、やや少ないとはいえそれほど大差はありません。明らかな大きな違いはテクニカルスタッフの存在であり、GRCでは現員としてはゼロですから、本来テクニカルスタッフがおこなうべき装置の管理や維持まで教員がかなりの負担をしているのが現状です。我が国の大学で技官定員を増やすことは不可能に近いのが実情であり、この問題に対しては1)非常勤職員の雇用と待遇改善、2)GRC研究員(学内、学外)および博士研究員による装置管理維持の援助、3)関連企業等との連携により対処したいと考えています。
研究面については、GRC内部の研究分野をいたずらに拡大するよりは、これまでの伝統や既存の装置等を十分に生かし、むしろGRCとしてはより研究分野を特化して特徴あるセンターを目指すべきだと考えています。手法としては実験および数値計算を中心に据え、地球深部の物性と構造を集中的に研究し、その結果をもとに地球深部のダイナミクスを解明するというスタンスを維持したいと思います。
一方でGRCの人的および設備上の資源を最大限に生かして、新しい方向の研究の展開をめざすことも重要です。このためには学内および学外のGRC研究員との連携を現在以上に強化し、また国外も含めた共同研究の推進を計りたいと思います。ただし後者に関しては、EUからの支援を受けているBGIとは異なり、基本的には我が国の予算で運用しているGRCとしては、我が国の研究および教育への貢献が第一に求められるのは当然です。海外からの優秀な研究者や学生の一定数の存在は、研究教育の両面で重要ですが、まずGRC独自の研究をすすめ、また自らの学生や若手研究者育成を第一にすべきであると考えます。
この点で教育面では、学長の発案でスタートした「スーパーサイエンス特別コース(SSC)」の学生の教育が、今後の1つの重要な課題であると認識しています。このコースの「地球惑星科学コース」長を4月から拝命していますが、このコースでは広範な分野の学内外の関係教員のご協力のもと、将来的には従来の地球科学の枠や発想にとらわれない、新しいタイプの研究者を輩出することを目指したいと思います。
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