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今年度から、本センター助教として赴任しました。私は、修士課程までの6年間と、日本学術振興会特別研究員としての1年間を愛媛大学で過ごしました。今回、スタッフとして本センターに勤めることができ、とてもうれしく思っています。
前任地は米国シカゴで、アメリカの第3世代放 射光施設であるAPS (Advanced Photon Sources)で放射光を利用して地球科学に関する研究を行うシカゴ大学の研究センターであるGeoSoilEnviroCARSでBeamline Scientistとして勤務していました。このことからもわかるように、私は学部の卒業研究時から現在にいたるまで、高輝度X線である放射光を利用した超高圧実験を行っています。近年は、地球深部物質の塑性的性質を、高圧下における変形実験と放射光を使ったX線回折実験・X線透過像観察を組み合わせた手法を用いて、実験的に研究しています。
マントルは、その全体的な規模で対流していると考えられています。地表部では十数枚の板状にわかれたプレートが水平移動し、海洋プレートが海溝からマントルへと沈み込んでいます。その沈み込んだ海洋プレート(スラブ)のマントル深部における様子は地震波トモグラフィーによって視覚的にとらえられています。それらの結果によると、スラブは、あるところでは、マントル遷移層に水平方向に横たわるように滞留し、またあるところでは、板状の形状を保ったままマントル最下部付近まで沈み込んでいるように見えます。さらに、マントル深部から地表へと向かう大規模な上昇流、マントルプルームの様子もとらえられています。このような全マントルにわたる物質循環の様式は、その流動を引き起こす駆動力(密度差)と、地球深部物質の塑性的性質(流動特性)によって支配されていると考えられます。私は、これまで高圧下における変形実験と放射光を組み合わせた実験手法を用いて、マントル遷移層の重要鉱物であるリングウッダイトの変形実験を行い、その変形様式と特性の一部を明らかにしましたが、まだまだわからないことばかりです。マントル遷移層に相当するような高圧下での変形実験は技術的に難しく、新しい実験技術開発が行われつつある最中です。
本センターでは、マントル遷移層以深に相当する条件における定量的な変形実験を可能にするための技術開発を行い、全マントル規模にわたる物質循環様式を物質科学の観点から解明することに少しでも貢献できるような研究を行っていきたいと考えています。よろしくお願いいたします。
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山田 明寛
(学術創成研究員)
本年度4月から本センターの研究員として仕事をさせていただくことになりました山田明寛です
(写真右から2人目)。学部の卒業研究から本センターにお世話になっているので、『新人』にはあたらないとは思いますが、心機一転がんばりますのでどうぞよろしくお願いします。
私は、高温高圧下において生成される含水マグマについて、マルチアンビル型高圧発生装置とKEKやSPring-8の放射光X線を組み合わせた高温高圧その場観察実験による研究を行っています。博士課程での研究では、高圧下で作り出された含水Mg珪酸塩液体(高圧含水マグマ)の構造を直接X線回折法によって調べました。液体の構造というと不自然な感じがするかもしれませんが、液体には結晶のような長距離規則性はないものの、局所的な視点から見ると確かに構造が存在しています。例えば珪酸塩液体はSiO4四面体構造を基本単位とした局所構造を持ち、それぞれの四面体が複数のO原子を共有して複雑な網目構造をとっていることが知られています。
高圧下における含水マグマの構造の直接観察実験は、その実験的困難さからこれまで行われてきませんでした。私は特に高圧下での試料容器について技術開発を行い、初めて高圧下での含水珪酸塩液体の構造データを得ることに成功しました。また得られた情報から、含水Mg珪酸塩液体中の網目構造が2-3
GPaの圧力領域から卓越し始めるという結論を得ました。
水がマグマに加わることによってマグマ中の網目構造が分断されることは以前より知られていたことですが、含水マグマの網目構造が高圧の領域で卓越し始めるという現象を直接観察した例はありません。このような圧力下におけるマグマ中の網目構造の変化において、重要な鍵を握っているのは水の役割です。低圧の領域(約2
GPa以下)では水成分(OH)はSiに取り付きやすく、主にSiOHの形でマグマ中に溶け込みます。これが以前より明らかにされていた網目構造の分断のメカニズムです。
一方、今回見出された網目構造の卓越は、水の成分が高圧下でSiではなく、Mgに取り付きやすくなるため網目構造の分断が抑制されことによると解釈することができます。このような水の圧力による特性変化は、含水マグマおよびH2Oフルイド中の珪酸塩成分の組成が圧力上昇に伴いSiO2からMgO成分に富むものへと変化するというこれまでの研究結果と矛盾しません。このように高圧含水マグマの構造に関する直接観察実験を行うことによって、含水高圧条件下でのマグマの成因に、構造という微視的観点から新しい知見を見いだすことができたと考えています。
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西山 宣正
(助 教)