入舩 徹男


  今年は4月早々国内・海外連続出張で、花見は無理かとあきらめていましたが、出張前日の3月31日と松山に戻った翌日の4月11日に、道後公園で花見に参加することができました。桜もそれぞれ5分咲・散りはじめと異なる趣で、束の間ではありましたが学生やGRCスタッフと、ひとときの春の宴を楽しみました。
  私ごとではありますが、ここ10年近く毎朝家から40分ほどかけて研究室に歩いています。健康維持と体重コントロールが目的ですが、後者はあまり効果がないようです。しかしそれにも増してこの40分間は、私にとって誰にも思考を中断されない貴重な時間となっています。研究はもちろん、学生の実験テーマ、職場の人間関係、GRCの長期的展望等々。コマ切れのスケジュールに追われる最近の生活の中で、少しの間ですがまとまって考えることのできる大切なひとときです。
  毎朝ほぼ同じ時間に(7時45分プラスマイナス5分)家をでるため、50万都市とはいえまだまだ田舎の四国の松山では、途中でいつも何人かの顔見知りに出会います。顔見知りといっても単に同じ時間に同じ場所ですれ違う人々で、特に面識があるわけではありません。ブツブツつぶやきながら自転車で走り去るおばさん、狭い道をスポーツ仕様に改造した「軽」で爆走していくおにいさん、突然立ち止まって大声で挨拶してくれるおじいさん、そして大学付近をいつも徘徊している「黒いおじさん」など、かなり怪しく個性豊かな面々です。私もその1人かも知れませんが…。
  一瞬思考は途切れるものの、これらの常連さんに出会うと最近は何故かほっとします。東京や大阪などの大都市では考えられない、地方ならではの一面かもしれません。一方、まわりが知り合いばかりという田舎すぎる環境では、このような自由な散策は妨げられるような気もします。縁あって松山にきてもうすぐ20年。どうしても馴染めない面もありますが、仕事や生活するにはちょうどいいサイズの街かなとも感じる昨今です。
  大学に着く直前の護国神社の桜並木は特にお気に入りの場所で、花の時期にはあえてコースを変更してこの下を通ります。今年はちょうど見頃の時期に10日間不在でしたが、戻ってもまだ満開に近い状態を保ってくれていました。
  「春や昔 十五万石の 城下哉」。子規にしてはめずらしく破調の句ですが、世の無常と栄枯盛衰を詠った松山の名句です。GRCもこの4月で設立後丸7年。まだまだ5分咲き程度の状態と感じていますが、今後も散ることを恐れず美しい花を咲かせることができればと思います。




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