(最終回)


  本学術創成研究は、放射光と超高圧実験を組み合わせたX線その場観察実験技術の新たな展開とそれに基づく地球深部物質の探査を目的とし、代表者がセンター長を務める愛媛大学地球深部ダイナミクス研究センター(GRC)のメンバーにより推進された。本研究では(1)焼結ダイヤモンドを用いた超高圧技術と(2)超音波測定に基づく高温高圧下弾性波速度の開発により、地球のマントル遷移層?下部マントル領域における相転移境界・密度変化・弾性波速度の精密測定をその中心的課題とし、(1)においては70GPa領域の圧力発生とそのような圧力下でのX線その場観察技術の確立、(2)においてはマントル遷移層に対応する20GPa領域での弾性波速度測定という具体的な技術目標を設定した。
  幸いにもこの当初の技術目標は超過達成され、(1)においては本研究の最終年度には80GPaという最高圧力を達成するとともに、(2)においても20GPaを越える圧力と1800K領域での弾性波速度測定が可能になった。これらの世界最先端実験技術を利用した地球深部物質の解明についても重要な研究成果があがっており、最終年度に発表されたマントル遷移層条件下での弾性波速度測定に関するNature論文をはじめとし、現在も引き続き多くの論文が国際誌に発表されつつある。現時点(2008年2月末)において研究期間中に代表者・分担者により発表された論文は、Nature誌2件、Science誌1件をはじめ国際誌に130件、国内誌25件、著書8件にのぼる。またこの間、代表者の入舩による国際会議・招待講演48件(うち基調講演8件)をはじめ、360件にのぼる招待講演・一般講演がなされている。
  一方で、GRCにより開発され、本研究が開始される直前の2003年にNature誌に発表された超高硬度多結晶ナノダイヤモンド(NPD=HIME-DIA)の応用による、新しい超高圧実験技術の開発にも取り組んだ。この結果、常温ではあるがマルチアンビル装置による従来の限界を打破する100万気圧以上の高圧発生も記録し、この新材料の超高圧発生におけるポテンシャルの高さを示した。現在、より超高圧の発生をめざした取り組みや、中性子実験を念頭においた新たな装置開発も開始されつつある。また、理論グループとの共同研究も大きく進展し、2007年には代表者の入舩および分担者の土屋の共著により、地球物理学の世界的教科書「Treatise on Geophysics(エルゼビア、全11巻)」においてその成果が取りまとめられた。
  新たな学術分野を創成しつつ、関連分野における若手研究者の育成も念頭において、共同研究の一環としてGRCを訪れた国際的研究者による集中講義「国際レクチャー」を6回、先端的研究に関するセミナー「国際フロンティアセミナー」を17回主催するとともに、研究成果の発表や議論のために「国際ワークショップ」を北京大学(理論応用地球物理学研究所)、愛媛大学GRC、シカゴ大学(APS・地球科学放射光コンソーシアム)において主催した。最終年度の2007年末にシカゴで開催したAPSにおけるワークショップでは、日・米・欧の放射光高圧地球科学を中心とした研究者計約70名が参加し、本研究の成果報告とともに今後の放射光高圧地球科学分野の方向についても議論がなされた。なお、このワークショップの研究発表内容は、国際誌「High Pressure Research」の特集号として2008年中の出版が予定されている。
  研究成果の情報発信にも最大の努力が払われ、GRCホームページにおける最新の成果の公表とともに、年3回発行されているGRCニュースレターにおいて、4か月ごとに得られた研究成果の定期的報告をおこなった。また、成果の一般向け解説のため、平易な内容の書籍「ダイヤモンド号で行く地底旅行」を2005年に出版するとともに、2007年には本研究の成果を中心とした市民公開講演会を主催した。
  以上のような本研究の成果は、地球科学分野において高いインパクトを与え、例えばISI「Top 1% Citation Paper (Materials Science分野)」(2005年:入舩)、同「New Hot Paper(Geoscience分野)」(2006年:土屋)、エルゼビア「Most Cited Paper(Phys. Earth Planet. Inter.誌)」(2007年:井上)等に選ばれている。また代表者の入舩は期間中に「石川カーボン賞(2004年)」、「粉体粉末冶金協会研究進歩賞(2007年)」、「フンボルト賞(2007年)」を受賞するとともに、世界140か国に5万人近い会員をもつ地球惑星科学の世界最大組織、アメリカ地球物理学連合(AGU)の2008年度「フェロー」に選出された。
  本研究により創成された「放射光超高圧地球深部物質学」ともよぶべき研究分野は、GRCと深い研究交流のある東大の鍵裕之氏を代表とし、平成19年度から開始された学術創成研究「強力パルス中性子源を利用した超高圧物質科学」にその一部が受け継がれ、地球惑星科学の新たな展開が期待されている。また本研究により生み出された独自技術と、研究を通じて育成された若手研究者は、より深部の下部マントル最下部〜中心核に至る極端条件下での物性や構造、またダイナミクスの解明にむけたGRCをはじめ我が国の研究者による新たな挑戦において貴重な財産になると確信する。
  最後に本研究の分担者の皆様には、教育その他の仕事も多い地方大学の厳しい研究環境の中、多大なご協力をいただいたことに対して深く感謝する。また本研究の推進に際してご協力いただいたSPring-8(JASRI)および愛媛大学の関係者の方々、特にGRC事務を中心とした支援スタッフの皆様には心からお礼申し上げる次第である。



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