Structure and Evolution of the Antarctic Plate (SEAP2003, 南極プレートの構造と進化)と題されたワークショップが2003年3月3日〜5日にアメリカ合衆国コロラド州ボウルダーで開催されました。コロラド大学の Ritzwoller 氏らの主催で、地震学的、測地学的に南極プレートを研究するプロジェクトを立ち上げることを目的としています。今後プロジェクトの詳細をまとめて、予算獲得に乗り出す予定とのことでした。国際的なプロジェクトにするつもりのようで、アメリカだけでなく各国から参加者が集まりました。日本からは私のほか、国立極地研究所の澁谷教授と金尾助手が参加しました。
  私が専門のグローバル地震学・地球内部構造の分野からは、B.L.N. Kennett 氏(豪)、J.-P. Montagner 氏(仏)、S. Danesi 氏(伊)、A. Lerner-Lam 氏(米)、D. Forsyth 氏(米)などといった各国の著名な研究者が出席しました。Danesi 氏を除けばこれまで南極の研究をおこなったことがないような方々なので、急に南極への関心が高まったかのような錯覚に陥りました。こういった方々を南極研究に引き込んだRitzwoller 氏たちの、本プロジェクトへの意気込みがうかがえました。
  私は「Rayleigh-wave group-velocity distribution in the Antarctic region (南極地域のレイリー波群速度分布)」というタイトルでポスター発表を行いました。レイリー波というのは地震表面波の一種であり、短周期では海水層の厚さや地殻の構造に大きく影響を受け、長周期になるにしたがって次第にマントルの構造を反映します。したがって、各周期での速度の分布から、地殻・マントルの構造を推測することができます。この研究では、トモグラフィー的手法(医学での CT スキャンと同じ原理)を使って、南極地域でのレイリー波の群速度(速度の一種)分布を求めました。
  すでにいくつかのグループで同様の研究が行われているが、われわれの場合、臨時地震観測網などの多くの地震観測網を用いることによって、より細かい構造が見えてきました。ポスター発表では、そのあたりに関心が持たれ、どのようにしてさまざまな地震観測網からのデータを取得したか尋ねられました。また、この研究で用いたすべてのプログラムを私が自分で組んだことに対して「good job」と言っていただきました。お世辞であるとは思うが、トモグラフィーを始めたばかりの私としては、多少なりとも自信となりました。今回の発表で、日本でも南極地域の表面波トモグラフィーの研究をやっているグループがある、ということをアピールできたように思います。
  このワークショップの大きな特徴は、研究発表だけではなく、ワーキンググループによる議論にも重点がおかれたことです。参加者は自由にどのワーキンググループに参加してもよいとのことだったので、私はグローバル地震学のワーキンググループに出席しました。
  定常地震観測点の増設や、臨時観測網の計画が主に話し合われました。しかし、南極観測に携わったことのない人が多いせいか、南極の自然環境の厳しさを踏まえない意見も少なからずありました。私も南極観測の経験はないが、越冬経験者からいろいろと話を聞いていたので、ついつい苦笑してしまいました。
  また、観測面や予算面について話し合っている時に,何度となく「More is better.」という声が聞かれ、「あればあるだけよい。それはあたりまえ。しかし現実は……。」という言外の意味が含まれていました。どこまでが実現可能なのかを見極めることの難しさを改めて認識させられました。
  こういった新たな国際プロジェクトを立ち上げる場面に遭遇できたのは、たいへん嬉しかったです。しかし、このプロジェクトが実際に始動するかどうかはまだ分かりません。南極観測に対する甘い見通しがたたって頓挫するかもしれません。こうした問題をどうクリアしていくか、今後の推移を注視し、また貢献できるところはしていきたいと思います。
  このワークショップの参加に際して、日本極地研究振興会より渡航のための助成金をいただきました。また、趙教授、入舩教授にはいろいろと便宜を図っていただきました。記して深く感謝いたします(小林 励司)。



 アルゴンヌ国立研究所訪問     


  3月3日〜7日にアメリカ、シカゴ近郊にあるアルゴンヌ国立研究所を訪問しました。ここは、アメリカにおける原子力関係の総合的な研究所で、その中にアメリカの第3世代放射光施設、Advanced Photon Source (APS)があります。今回はそこで放射光を利用した地球科学の研究を行っているシカゴ大学、GEOCARS (GeoSoil Enviro- Consortium for Advanced Radiation Sources)に所属するYanbin Wang博士のもとを訪問、実験の見学をさせていただきました。GEOCARSには約15人のスタッフがいて2本のビームライン、4つの実験ハッチの運営をしています。

 
  GEOCARSのスタッフはそれぞれが放射光を使った研究を進めるとともに、世界中から来る共同利用実験者のサポートもします。GEOCARSには、XAFS、X線回折および散乱、X線をつかった蛍光X分析および微小領域のX線トモグラフィー、大型プレスを用いた高温高圧下におけるX線その場観察、DACを用いたX線その場観察の5つの実験手法のスペシャリストが所属し、研究を進めています。Wang博士は大型プレスを用いたX線その場観察実験を進めるグループのリーダーです。
  Wang博士の研究グループは、放射光と弾性波速度測定を組み合わせた実験、高圧下における微小領域X線トモグラフィー技術の開発、さらに放射光と高温高圧変形実験装置を組み合わせた研究を行うなど、きわめてユニークな放射光利用研究を進めています。わたしが訪問したときには、ローレンスリバモア国立研究所とドイツ・マックスプランク研究所の方々が共同利用実験に訪れていて、貴重な実験を見学することができました。写真はそのときの実験風景です。左端がWang博士、右端がローレンスリバモア国立研究所のZhang博士です。今回の訪問で放射光を使った地球科学研究の最先端に触れることができ、とても貴重な経験になりました。(西山宣正)。

 SEAP2003 ワークショップ参加報告