電界放出型走査型電子顕微鏡(FE-SEM)
本装置(FE-SEM)は熱電界放出型電子銃を備えたニュータイプの走査型電子顕微鏡(SEM)で、鉱物などの極微小領域の組織観察、化学組成分析に威力を発揮します。エミッタ(電子線発生陰極)にタングステンフィラメントを利用した従来の SEMとは異なり、陰極に細く尖らせたタングステンチップ(酸化ジルコニウムで被膜化)を用い、それを1800K程度で加熱し電子線を放出させます。エミッタの寿命はおよそ20,000時間以上と、タングステンフィラメントと比較して格段に長く、またエミッタを常時加熱しているため表面に残留ガスが吸着されず、常に安定した放出電流を得ることができます。驚くべきはその分解能の高さで、通常のフィラメントタイプのSEMの分解能が5 nm程度であるところ、FE-SEMでは分解能1.2 nmと非常に高く、10万倍を超える高倍率のもとでもシャープな像観察(二次電子像・反射電子像)を行うことができます。これにより以前では通常のSEM観察が困難であったサブミクロンサイズの高圧合成鉱物の直接組織観察が可能になり、微細領域の情報をより正確につかむことができます。
またこの装置の特徴であるハイパワー型の集束レンズ系により、数10 nm以下という小さいプローブ径にも関わらず大きなプローブ電流を得られるため、この夏に導入が予定されているエネルギー分散型X線分光装置(EDS)と組み合わせることにより、100
nm以下の微小領域における元素定量分析や低加速電圧(〜5 kV)での高分解能元素マッピングが可能です。さらに後方散乱電子線回折装置(EBSD)も本装置に付加、導入される予定で、将来的には鉱物試料の微小領域からの結晶学的情報(結晶系や結晶方位など)をも得ることができ、高圧合成試料における鉱物の定向配列性やミスオリエンテーション分布などを検討することも可能になると思われます。これにより、当センターにおいて高圧合成された試料についての物性評価をより詳細に、総合的に行うことができ、今までまだ見逃されていたような新たな発見も期待されます。