(1)背景
二酸化物の中で特に二酸化ケイ素(SiO2)は地球の主成分であるため、地球惑星科学において中心的な役割を担う物質として知られています。そのため、SiO2の高圧環境下における構造特性や物性が精力的に研究されてきました。近年、観測技術の進展に伴い太陽系の外部に多くの惑星が観測されるようになり、その中の幾つかは地球と同様に岩石を主体とする惑星であることが明らかになっています。それらは「スーパーアース」と呼ばれ、その内部構造が注目されています。最近そのような惑星のマントル深部条件において、リン化二鉄(Fe2P)型結晶構造を持つSiO2の新規高圧相がGRCの鉱物物性理論グループにより提唱されました。理論研究が進展する一方で実験的検証も強く望まれましたが、予言された相転移圧(およそ700万気圧)が極めて高かったため、実験は技術的に極めて困難でした。そこで本研究ではSiO2と類似の高圧相関係を持つ種々の二酸化物をターゲットとし、理論及び実験の両面からこの相転移の検証を試みました。
(2)具体的成果
まずFe2P型構造の安定化の可能性を第一原理シミュレーションによって系統的に探索し、その結果TiO2が実験的に検証可能な約200万気圧という相転移圧を持つ事を見出しました。TiO2は大きなバンドギャップを持ち、透明で優良な絶縁体である事が知られていますが、この相転移に伴い約40%もバンドギャップが減少し、それによって試料の透明性が低下するという物性変化も予測されました。
続いて、予測されたTiO2の新たな相転移を検証するために大型放射光実験施設SPring-8にて、レーザー加熱ダイヤモンドアンビルセルを用いた超高圧高温実験を行いました。その結果、予測された温度圧力条件においてFe2P型構造への相転移を実際に観測することに成功しました(図2)。二酸化物におけるFe2P型相の合成は、本研究が世界初となります。さらに、予測された通り相転移に伴いTiO2試料が不透明になる事も光学観察によっても確認され(図3)、理論・実験の双方から整合的な結果が得られました。
図2:本研究によって得られたTiO2の相図。赤線はFe2P型構造への相転移境界の理論予測を、赤い四角が本実験でFe2P型構造が確認された温度圧力条件を示す。
図3:相転移後の試料写真。点線丸枠内がTiO2試料全体を表し、中心部分のみがレーザー加熱によって透明性の低いFe2P型相へ相転移している。
(3)今後の展開
TiO2に対する今回の発見は、先に予言されていたスーパーアース深部におけるFe2P型SiO2の存在を強く支持するものでもあり、地球型惑星や巨大ガス惑星の深部構造研究をさらに進展させる重要な成果となります。一方、すでに著者らは、TiO2やSiO2の他に二酸化ゲルマニウム(GeO2)においても同様の相転移について理論予測を報告しており、これらにより二酸化物の超高圧相関係が系統的に理解されつつあります。加えて、今回見出された高圧相は低圧相とは大きく異なる物性を有しており、今後材料科学分野など他分野へ応用できる可能性も期待されます。
題 目:Theoretical and experimental evidence for a new post-cotunnite
phase
of titanium dioxide with significant optical absorption
著 者:H. Dekura, T. Tsuchiya, Y. Kuwayama and J. Tsuchiya
雑誌名:Physical Review Letters 107, 045701, 2011.
理論・実験コラボレーションの成果:二酸化物の最高密度相を発見